日本小児科学会からのインフルエンザ治療指針2019/20シーズン

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2019/2020シーズンのインフルエンザ治療指針

日本小児科学会より発表された治療指針です。”治療”ですので、最終的には医師が判断することになりますが、どのように治療が行われているのかを知っておくことは、患者としても重要と考えられるので紹介します。

原文2019/2020シーズンのインフルエンザ治療指針

治療ももちろん大切ですが、感染予防として飛沫感染対策は大切です。咳エチケット(有症者自身がマスクを着用し、咳をする際にはティッシュやハンカチで口を覆う等の対応を行うこと)、接触感染対策としての手洗い等の手指衛生を徹底することは自宅でもできることです。

外来治療における対応

季節性インフルエンザに対する抗インフルエンザ薬の有効性に関する知見は、有熱期間の短縮のほか、抗インフルエンザ薬の早期投与による重症化予防効果が示されています。

治療対象について

  • 幼児や基礎疾患があり、インフルエンザの重症化リスクが高い患者や呼吸器症状が強い患者には投与が推奨される。
  • 発症後48時間以内の使用が原則であるが、重症化のリスクが高く症状が遷延する場合は発症後48時間以上経過していても投与を考慮する。
  • 基礎疾患を有さない患者であっても、症状出現から48時間以内にインフルエンザと診断された場合は各医師の判断で投与を考慮する。
  • 一方で、多くは自然軽快する疾患でもあり、抗インフルエンザ薬の投与は必須ではない

入院治療における対応

原則として全例、抗インフルエンザ薬による治療が推奨されています。経口投与が可能であれば幼児はオセルタミビルの投与が推奨されますが、経口投与が困難な場合はペラミビル点
滴静注が考慮されます。呼吸器の基礎疾患や肺炎のない年長児においては、確実に吸入投与が可能な場合に限りザナミビルやラニナミビルが選択されます。集中治療管理が必要となるような重症例および肺炎例に対して使用経験の最も高い薬剤はオセルタミビルです、経口投与が困難な場合はペラミビルの静注投与が推奨されます。

抗インフルエンザ薬一覧

新生児・乳児

オセルタミビル(タミフル)生後2週以降の新生児と乳児の適応あり
ペラミビル(ラピアクタ)生後1か月以降の乳児の適応あり

重症例および肺炎合併例

オセルタミビル(タミフル)
ペラミビル(ラピアクタ)

それ以外の入院患者に対しては

オセルタミビル(タミフル)
ザナミビル(リレンザ)
ラニナミビル(イナビル)
ペラミビル(ラピアクタ)

バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)について

バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)は、インフルエンザウイルス特有の酵素であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼの活性を選択的に阻害する新しい作用機序の抗インフルエンザ薬です。2018 年 2 月より製造販売承認を受けています。ゾフルーザの抗ウイルス作用や臨床的効果については、インフルエンザに罹患した12 歳以上の健常な小児および成人を対象とした、ゾフルーザ、タミフル、プラセボ(偽薬)の 3 群によるランダム化比較試験が行われ、ゾフルーザはタミフルと同様な有効性と安全性が報告されています。しかし、ゾフルーザを小児患者に広く使用するにあたっては、現時点で懸案事項が2つあります。

懸案1 使用経験が少ない

まずは小児における使用経験の報告が乏しいことが挙げられます。ランダム化比較試験の報告の対象は12歳以上の小児と成人であり、製造販売承認前の時点における 12 歳未満小児における検証は体重 10kg以上の小児 107人のオープンラベル第 III 相試験で、対照群のない検討に限られています。この群におけるインフルエンザ罹病期間(中央値)は 44.6 時間と報告され、特に重篤な副作用を認めていません。北海道における使用経験報告からは、ゾフルーザを発熱48時間以内に使用した小児 17 例において、A 型インフルエンザに罹患した患者はタミフル投与群と比べ解熱までの時間に差はなかったが、B 型インフルエンザ患者においてはゾフルーザが投与された患者の解熱までの時間の方が短いことが示されています。したがってゾフルーザは小児においても有用であると想定されるものの、幅広く推奨を行うだけのデータ集積がない状況です。

懸案2 耐性ウイルスの出現

治療中に耐性ウイルスが出現することが報告されています。変異ウイルスは主として A(H3N2)A(H1N1)で検出されています。2016/2017 シーズンに行われた治験における検討では治療後 3-9 日に 9.7%の患者検体で変異ウイルスが検出され85.3%はウイルス量の一過性の増加が認められ、症状の増悪も 10%前後に認められています。販売前の変異ウイルスによる検討や野生株との競合実験では増殖能が低下しているため理論上は広く伝播するリスクは低いと考えられていたが、その後のマウスの競合感染実験においては、野生株と同等であることも報告されている。つまり、普通通りに感染が広がる可能性があるということです。また治療歴のない小児患者からの検出が報告され、変異ウイルスの家族内伝播例も国内より報告されるなど不安材料が残る状況です。

他にも以下のような意見も記載されています

  • 免疫不全患者では耐性ウイルスの排泄が遷延する可能性がありゾフルーザを単剤で使用すべきではない
  • 重症例・肺炎例については他剤との併用療法も考慮されるが、当委員会では十分なデータを持たず、現時点では検討中である

まとめ

2019年は早めにインフルエンザの流行が始まったため、ワクチン接種が間に合わず、治療が必要になる方も多いかと思います。特にゾフルーザは昨年色々と話題になり、それから1年たちましたが、まだ慎重な使用が必要と各学会から意見がでています。処方される際は主治医とよく相談の上、治療を決定してください。

ゾフルーザのウイルス耐性報告2018/19シーズンについてはこちら

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2018/2019シーズンの抗インフルエンザ薬の耐性株最終報告

2019年8月29日

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病院で勤務する小児科専門医 1児(娘)の父です。 娘の誕生を機に、小児科医だからできる育児情報の配信をはじめました。 育児、子どもの病気、最新の論文を紹介していきます。