傷口から侵入する破傷風の危険性と予防方法



破傷風は子どもの頃の予防接種として聞いたことがある人もいるかと思います。4種混合ワクチンで予防できる感染症の一つです。子どもにとって大変な病気ですが、大人でも注意が必要です。傷口が不潔になった場合、例えば屋外での作業中にケガをした、動物にかまれたというときは、過去のワクチン接種歴の確認、破傷風に対しての治療が行われる必要があります。特に最近では、自然災害後の復旧作業に従事される方で注意が必要となっています。

災害時に注意が必要な感染症については国立感染症研究所に説明がありますのでご覧ください。

令和元年台風第19号関連・地域の感染症発生状況と感染症対策について(2019年10月18日現在)

破傷風とは

破傷風は、破傷風菌(Clostridium tetani )が産生する神経毒素により引き起こされる病気です。症状は強直性のけいれんです(ピンと手足を伸ばして突っ張ったようになるけいれん)。破傷風菌は土の中に広く常在しているので、汚れた創傷部位から体内に侵入します。潜伏期間(3 ~21 日)の後に局所(痙笑、開口障害、嚥下困難など)から始まり、全身症状(呼吸困難や後弓反張など)に 移行します。重篤な患者では呼吸筋の麻痺により窒息死することがあります。近年では、1年間に約40人の患者(致命率:約30%)が報告されており、これらの患者の95%以上が30才以上の成人でした。

疫学

日本では1952年に破傷風トキソイドワクチンが導入され、1968年には三種混合の定期予防接種が開始されたことで、破傷風の患者・死亡者数は減少しています。1991年以降の報告患者数は年間に30 ~50人程度ですが、致命率が20~50%と高い感染症です。新生児破傷風は1995年の報告を最後に、それ以降報告されていませんが、世界の新生児の主要な死亡原因の一つです。

症状・臨床経過

患者は通常3 ~21 日の潜伏期を経て特有の症状を発症し、4 期にわかれています。

第一期:潜伏期の後、口を開けにくくなり、歯が噛み合わされた状態(Lockjaw:鍵のかかったあご)になるため、食物の摂取が 困難となります。首筋が張り、寝汗、歯ぎしりなどの症状もともないます。

第二期:次第に開口障害が強くなっていきます。さらに顔面筋の緊張、硬直によって額に「しわ」ができ、 口唇は横に拡がって少し開き、その間に歯を露出し、あたかも苦笑するような顔(痙笑)になります。破傷風顔貌ともいわれています。

第三期:生命に最も危険な時期で、首の硬直、背筋の緊張、強直をきたして、発作的に強直性痙攣がみられるようになります。後弓反張とはこの緊張により背中側が反って、弓のようになった状態のことをいいます。

第四期:全身性の痙攣はみられませんが、筋の強直は残っています。症状は次第に改善していきます。

破傷風では第一期から三期が始まるまでの時間をオンセットタイムといい、これが48時間以内である場合、予後は不良であることが多いです。

新生児破傷風は潜伏期間が1~2 週間で、特徴的な症状には吸乳力の低下などがあり、発症すると60~90%が10日以内に死亡します。

以下のCDC(アメリカ疾病管理予防センター)のサイトで破傷風の写真を見ることはできますが、子どもたちには適さない画像の場合があります。苦手な方はご覧になる前にお気を付けください

破傷風患者の症状・写真(CDC)

 

治療方法

治療として、抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)投与や抗生剤治療、感染部位の充分な洗浄や、汚染されたからだの組織を取り除く=デブリードマンを行います。けいれんや呼吸障害などには、それぞれの症状にあわせた治療が必要になります。

抗破傷風ヒト免疫グロブリン

血液中にあり、抗体としての役割をもっている蛋白質です。人の血液から作られる血液製剤のひとつです。様々な病気への治療として使用されています。抗破傷風ヒト免疫グロブリンは破傷風毒素を中和するために投与します。まだ組織と結合していない毒素しか中和できないと考えられているので、可能な限り早く行われる必要があります。

ワクチン接種

破傷風に感染したとしても、十分に抗体が得られないことが多いため、ワクチン接種を行うことが望ましいとされています。以下の表のように、最終ワクチン接種歴と破傷風の可能性からワクチンを接種します。

ワクチン・ガンマグロブリンの投与基準(IASRのホームページより引用)
外傷と破傷風治療・ワクチン接種

定期接種ワクチン

小児期の定期接種は生後3か月~7歳半までの四種混合ワクチン(旧三種混合ワクチン)と、11-12歳頃行われる二種混合ワクチン(DT)となっています。定期接種であれば期間中は無料で受けることができます。

成人以降のワクチン

成人以降では定期接種となっている破傷風のワクチンはありません。接種費用は自己負担で、1000円から10000円程度です。アメリカでは10年ごとにワクチンの追加接種(ブースター)を推奨しています。日本では40歳頃を境に抗体陽性率は大きく低下し、報告されている発症患者で45歳以上が90%以上となっています。

破傷風発症の可能性がある外傷の場合は、過去のワクチン歴を確認したうえで、治療とともに破傷風トキソイド(ワクチン)の治療が行われます。予防にかかる自己負担は、治療に必要な金額+時間+身体的苦痛を考えると安いものではないでしょうか。

CDC 破傷風ワクチンの種類と対象者

参考資料

国立感染症研究所 破傷風とは

成人への破傷風トキソイド接種

開業医の外来小児科学 南山堂

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

ABOUTこの記事をかいた人

病院で勤務する小児科専門医 1児(娘)の父です。 娘の誕生を機に、小児科医だからできる育児情報の配信をはじめました。 育児、子どもの病気、最新の論文を紹介していきます。