浴槽浮き輪でなぜ溺水事故は起きるのか?症例報告とメカニズムを解説



子どもとお風呂に二人きりで入るとき、自分の髪、体を洗う際にどうしても子どもから目を離してしまう場合があります。そんなときに便利なものとして浴槽浮き輪がありましたが、この浮き輪を使用することによって溺水事故が多数報告されています。この記事では小児科学会Injury Aleartより浴槽での浮き輪使用で起きた症例の解説、転覆のメカニズムについて解説します。

事故症例

症例①

0歳9か月 男児

状況:母と一緒に入浴中に児はオムツ型の浮き輪に乗せられていた。母が洗髪をしていると、子どもの声がしないことにきづき(3~4分程度)確認したところ、児が浮き輪からはずれ、うつ伏せで浴槽に浮かんでいた。

人工呼吸を行った後、1~2分で呼吸が再開。救急車で搬送された。

治療経過と予後:集中治療室へ入院。翌日には意識も回復し、明らかな後遺症を認めず退院となった。

症例②

0歳7か月 男児

状況:母親と一緒に入浴していた。児は座面付きの浮き輪に座っていた。母親が洗髪のため2~3分ほど目を離したところ、浴槽内でうつぶせになって浮かんでいるのに気が付いた。救急隊を要請し、心肺蘇生を開始後、すぐに泣きだしたが、眼を閉じたまま体に力が入っていた。

治療経過と予後:到着後けいれんが出現し、意識状態の改善を認めなかったため大学病院へ転院となった。脳保護のために脳低温療法がおこなわれた。1か月間入院となった。

症例③

0歳10か月 女児

状況:母親と入浴中、浴槽用浮き輪に座っていた。3~4分ほど目を離し、気が付くと浴槽の底に沈んでいた。引き上げて刺激すると、嘔吐後徐々に呼吸が再開した。

治療経過と予後:救急車で到着時、児は意識もはっきりしており、元気に泣いていた。経過観察で入院したのち問題なく退院となった。

症例④

0歳9か月

状況:自宅の浴室で、児に浴槽用浮き輪をつけて遊ばせていたら、回転して顔が水中にもぐってしまった。そばで見ていた母親が2秒くらいで引きあげた。咳き込みが激しかったため、家庭用吸引器で鼻吸引をおこなった。呼吸停止や意識消失はなかったが、2時間後に医療機関を受診した。

治療経過と予後:状態は安定しており、呼吸、意識ともに問題は認めなかった。翌日も電話で確認したが様子は変わりなかった。

なぜ浮き輪は転覆するのか

この疑問に対して、日本小児科学会が公益社団法人日本技術士会「子どもの安全研究グループ」に依頼し、”浴槽用浮き輪による溺水”について検討されました。

数種類の浮き輪に6か月児相当のダミー人形を乗せて実験は行われました。浮かべるとゆらゆらして安定感があり、少しくらい傾けてももとに戻りました。

次に、ある程度子どもが前かがみになった状況を再現してみると、傾いた状態のまま安定していました。しかし、さらに前方へ約30度ほど傾けると突然動き出し、あっという間に転覆してしまいました。そのまま子どもは逆さ宙づり状態になっていまったのです。

「ダミーによる浮上実験(6枚)」イメージ

子どもの安全研究グループホームページより引用

この現象を計算式を用いて解析した結果でも、座る子どもの重心、浮き輪の浮力の関係から限界角度は30度ということが求められました。詳細な計算、グラフについてはこちらの浴槽用浮き輪による溺水のホームページをみてください。

くり返される事故報告

小児科学会雑誌のInjury Alertに掲載されたのは2008年5月です。その後も同様の報告があり、2010年7月にあらためてInjury Alertに類似症例の報告がされています。

その間、2009年5月の段階で消費者庁より報告された内容は、Injury Alertに以下のように記載されています。

浴槽用浮き輪については,小児科医からの情報提供を踏まえ,2007 年 1 月に当該製品を ST (Safety Toy)対象外とする手続きがとられた.同年,国民生活センターの要望を踏まえ,(社)日本玩具協会は注意喚起の共同社告を全国紙に掲載し,現在,製造・販売している会社はない

その後も浴槽用浮き輪による溺水は発生を続けています。これは販売が中止されたものの、すでに購入されていたものが使用されているインターネットで類似品の販売やオークション取引があることが理由として考えられます。

首浮き輪でも同様の事故がおきている

今販売されているものとして、首浮き輪というものがあります。こちらも同様にお風呂での事故が多数起きています。浮き輪から外れて浴槽内に沈んでしまった、浮き輪で鼻が閉塞し口は水中にあることで窒息したという報告があります。しかし、同商品は今も販売が行われており、育児サイトなどで人気の育児グッズとして扱われています。

事故報告をうけて平成26年に消費者庁、国民生活センターから注意喚起が行われています。

気を付けて、浴槽での首掛け式浮き輪の事故!!(PDF)

この資料の中に”カーラーの救命曲線”というものがあります。心臓停止、呼吸停止、大量出血の経過時間と死亡率の目安を示したグラフです。発症直後であれば死亡率は低いのですが、それぞれ3分、10分、30分経過すると死亡率が50%以上となります。もちろん、後遺症なく回復するかはまた別の問題です。

お風呂は最も多く溺死が起きる場所

子どもの死亡原因として不慮の事故があります。溺水は交通事故についで事故原因の第2位で、年齢が小さいほど浴槽での溺水が多くなります。

たとえ浮き輪を使わなないとしても、お風呂は家の中で死ぬ危険性がある場所No.1であることにかわりはありません。また死亡しなくても脳機能障害が後遺症として残る可能性があります。

まとめ

  • お風呂で浮き輪の使用はすすめられない
  • 決して親は目を離してはいけない、事故が起きる場合は一瞬

便利と思われるお風呂グッズは忙しい両親にとっては非常に魅力的に見えると思います。一瞬の油断が大きな事故につながる場所なので、自分たちが使用する道具の安全性は事前に確認しておくことをおすすめします。

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