防水スプレー吸入による急性肺障害の母子例
今までも消費者庁のホームページや、各種メディアで「防水スプレーによる事故」は取り上げられていたようですが、日本小児科学会雑誌2019年9月に症例報告として報告されていたので紹介します。
発生状況
34歳の母、4歳の男児が、8畳の居間で、換気扇を回しながら窓をあけてソファーに防水スプレー(1缶 290ml)を噴霧しました。30分後から両者とも咳が出現し、10時間後には多呼吸、呼気性喘鳴(息を吐くことがうまくできず、ヒューと音が鳴る状態)も認めるようになりました。翌日になり、症状が悪化して母子ともに入院となっています。
経過
母子ともに、酸素飽和度の低下を認め、胸部X線画像で両側肺の透過性低下を認めました。透過性低下とは肺の画像が白くなっている状態で、肺へ障害があることを示しています。
治療
入院後より酸素投与、ステロイド・抗生剤の点滴投与が行われました。3,4日目に症状は改善傾向となり、男児は14日間、母は10日間の入院加療が必要でした。
この報告から得られる教訓
防水スプレーの吸入事故の多くが屋内での使用時に起きています。この例でも換気扇、窓をあけるという対応を行っていましたが、事故が起きてしまいました。
靴などの小物であれば屋外に持ち出すことは可能ですがソファーという動かせないものに防水スプレーをするのは注意が必要ですね。小さなお子さんがいる家庭では、汚れ防止のためにソファーなどに防水スプレーを行うことも多いのではないでしょうか。
他にできることがあるとすれば
・子どもを近づけさせない
・マスクを着用する
中毒情報センターへの報告数
中毒情報センターへの相談件数は、2016年55件、2017年98件と報告されています。1987年~2015年までの詳細な報告数は以下のリンクからPDFファイルでみることができます。1993年、1994年はスキーシーズンに多くの報告がありました。
防水スプレーを吸い込む事故に注意しましょう!(中毒情報センター)
防水スプレーの成分
防水スプレーの成分は撥水剤・有機溶剤・噴霧剤から構成されています。
撥水剤にはフッ素樹脂とシリコン樹脂がありますが、今はフッ素樹脂がほとんどとなっています。毒性はフッ素樹脂の方が強いです。
有機溶剤・噴霧剤は吸入されてもほとんどが気道から排出されますが、撥水剤は肺まで達すると簡単には除去されません。そして肺の表面張力が低下することで、肺が十分に広がらなくなり、肺に炎症反応が起きます。
防水スプレー吸入による症状
撥水剤による呼吸障害(咳嗽、多呼吸、喘鳴、チアノーゼなど)と有機溶剤による神経症状(めまい、頭痛など)が起きると考えられますが、より危険なのは呼吸症状だと思います。
発生しやすい時期、場所は?
雨の多い梅雨時期、スキーシーズンに多くなると報告されています。また登山用品に対してスプレーを使用して事故になった事例もあるので、登山、キャンプを計画している人も注意してください。
発生場所のほとんどが屋内です。換気を行っていても不十分な場合があるので油断禁物です。
参考資料
防水スプレー吸入による急性肺障害の母子例 日本小児科学会雑誌123巻9号(2019年)
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