Injury Alertとは何か?
日常生活で子どもが遭遇する事故。それらは予防可能なものもありますが、報告されることもないため十分な対策が行われず、同じ事故が繰り返されています。
そのため、日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会により、2008年から日本小児科学会雑誌と学会ホームページに事故の詳細が掲載されるようになりました。それがInjury Alert(傷害速報)です。2011年からは類似の事例も掲載されるようになりました。
治療にあたる小児科医が知ることも大切ですが、実際に実際に事故に遭遇する両親、家族に知ってもらえるように記事を書いていきます。
No.019 子守帯(スリング)内での心肺停止
年齢:0歳 2か月27日 性別:女
母親がスリングを使用しながら、家族と電車で帰宅途中であった。スリングの使用法としては児の顔を含め全身を覆うような使い方で、外からは児の顔が見えない状態であった。
16時20分頃 スリング内で寝ているのを母が確認
16時45分に電車を降りた
16時50分頃 体動がなくなり、児は寝たと判断した。(呼吸の有無は確認していない)
17時過ぎ 帰宅しスリングから児を降ろしたところ、ぐったりしており呼吸をしていなかった
治療経過
17時09分に救急隊を要請し、By Stander CPRを行うように家族は指示された。17時17分に救急隊が到着したときは心静止であった。救命救急センターに搬送され、各種処置が行われた。一時的に心拍は再開したが、翌午前1時35分に死亡した。
国内でのスリングによる事故報告
国民生活センターへの報告数
日本では国民生活センターに1999年4月1日から2010年3月15日までに64件の報告があります。ケガをした児の年齢は0歳が全体の半数以上を占めており、0歳3か月から0歳8か月に多くみられました。内容としては「打撲傷・挫傷」が大半ですが、このInjury Alertの死亡事故は日本で初めての死亡報告でした。
報告内容は主に転落
多くはスリングからの転落です。正しい方法で抱く、スリングの固定、調節具を適切行うことで予防は可能になりますが、「買い物中に前かがみになったら滑り落ちた」との報告もあり、注意は必要です。
股関節脱臼をおこすこともある
スリングによる他の事故報告として股関節脱臼があります。赤ちゃんを抱きかかえるときに両足をそろえた状態でなく、股関節を広げた状態、M字開脚の状態でで抱くようにしてください。
この股関節脱臼に関しては日本小児整形外科学会から先天性股関節脱臼予防パンフレットが公開されています。
海外でのスリングによる事故報告
アメリカでの報告と対策
Consumer Product Safety Commission(消費者製品安全委員会)が製品の基準や、使用する両親向けの注意点を掲載しています。
CPSC Approves New Federal Safety Standard for Infant Sling Carriers
スリングの商品としての基準
- 推奨される重量の3倍に耐えることができる
- 製品試験の後、破損などがない
- 通常の使用中に子どもが落ちないように保持できるようにする
商品の警告タグや説明書には以下の内容を記載する
- スリング内での子ども正しい姿勢の絵をのせる
- 窒息の注意と、防ぐ方法
- 転落についての注意
- バックルやリングなどが壊れていないか確認するように知らせる
また以下のことを使用上の注意としてすすめています。
- 赤ちゃんの顔がいつもみえるようにする
- 哺乳後は赤ちゃんの顔が上にむくようにする
- こどもの鼻や口を覆っていないか頻繁にみる
カナダでの報告と対策
1995年以降9件の事故、そのうち2件は死亡事故が発生している。以下の点について注意を呼びかけている。
- 保護者がつまずいて転んだときに赤ちゃんが転落する危険性
- 不適切な姿勢で赤ちゃんが窒息する可能性
まとめ
スリングやだっこ紐は育児の強い味方で、今やなくてはならないものとなっています。それだけに使用するときに危険性を十分にしる必要があります。気を付けて使用しましょう。
その他のInjury Alertはこちら
Injury Alert(傷害速報)
No.019 子守帯(スリング)内での心肺停止
独立行政法人国民生活センター スリングや抱っこひもなど赤ちゃん用子守帯に注意
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