抗インフルエンザ薬の耐性株情報
日本は世界最大の抗インフルエンザ薬を使用する国です。小児科医として診療していても、インフルエンザワクチンは接種していないが、インフルエンザの迅速検査、抗インフルエンザ薬を希望される患者が多いことを感じます。
もともとインフルエンザに対して検査や治療薬はありませんでした。十分な休息で多くの場合改善する病気です。しかし、技術の進歩で治療の選択肢が広がったことで早期診断、症状の改善、重症化の予防などのメリットがあることは否定しません。
しかし、ウイルスや細菌に対して薬剤を使用する場合、少なからず”耐性化”という問題はつきまといます。せっかくの有効な薬が効かなくなれば元も子もなくなります。
多くの抗インフルエンザ薬を使用するからこそ世界に向けて情報を提供するため、国立感染症研究所が情報公開しています。また耐性株情報は定期的にアップデートされて公開されてきましたが、これから新しい流行シーズンに突入すること、2019年8月20日にまとめが報告されていましたので、ブログにまとめようと思います。
昨年話題になったゾフルーザ
特に気になるのが、昨年話題になった塩野義製薬のゾフルーザです。内服回数が今までの薬と違い、1回の内服で治療が終わることは大きなインパクトとなり、連日マスコミでも報道されていました。作用のメカニズムが違うことも、既存の抗インフルエンザ薬が効かない場合に効果がある可能性もあり、とても素晴らしいと私も思います。
しかし、ゾフルーザ耐性化の可能性が高めであることなどの問題点もあることは、事前の調査で指摘されていましたし、日本感染症学会からは提言が発表されました。日本小児科学会からも小児でのデータがまだ不十分でないことからゾフルーザの使用を推奨しないと提言が発表されています。
日本感染症学会「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬について」
日本小児科学会 2018/2019シーズンのインフルエンザ治療指針(PDF)
国立感染症研究所の報告
報告は下記の国立感染症研究所のホームページに掲載されています。原文、資料をご覧になりたい方はリンクよりご覧ください。過去の耐性株情報も掲載されています。
抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス 2019年8月20日
解析までの流れ
- 各都道府県の病原体定点医療機関で患者から検体が採取される
- 地方衛生研究所へ検体が送られ、検体のウイルス株が検査され、国のサーベイランスシステムに登録
- 登録株の10~15%が無作為に選ばれて、国立感染症研究所へ送られる
- 国立感染症研究所に送られたすべての検体が解析され、結果が報告される
耐性株の結果
結果のPDFファイルはこちらです。上段が耐性株数と頻度(%)、下段が解析した総数となります。薬剤の一般名と商品名は以下のようになります。
- バロキサビル = ゾフルーザ
- オセルタミビル = タミフル
- ペラミビル = ラピアクタ
- ザナミビル = リレンザ
- ラニナミビル = イナビル
A(H1N1)pdm09=2009年に流行した新型インフルエンザ
従来の抗インフルエンザ薬に比べてゾフルーザは、解析数が少ないものの、耐性株の頻度は多いのがわかります。耐性を認めた6例は全てゾフルーザが投与されていました。
A(H3N2)
ノイラミニダーゼ阻害薬で耐性を認めないものの、ゾフルーザのみが9.6%とという高い耐性率でした。しかも34症例のうち4例はゾフルーザが未投与でした。
上記画像は国立感染症研究所の抗インフルエンザ薬耐性株情報から引用しています。
2019/2020シーズンはどうなるか?
マスコミにも大きく取り上げられ話題となったゾフルーザですが、耐性化、効果などの情報が集まったことでしょう。現場で治療する勤務医としては新たに発表される学会の治療指針や、病院の方針に従い使用することになると思います。
実際に治療を受ける方が多く受診する、一般開業医、クリニックでは患者からゾフルーザの希望があれば処方するでしょうから、昨年同様に処方数が増えると個人的には予想します。それだけ1回の内服で治療が終了するというのは魅力があります。ただゾフルーザの耐性化がこれ以上進まないことを願います。
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