百日咳(Pertussis, Whooping cough)
世界的にみられる病気で、小児、特に1歳未満の乳児が重症化する危険な病気です。日本では2か月目から接種できるワクチン(四種混合:DPT-IPV)のP:Pertussisとして含まれています。しかし、接種後年数の経過で成人でも発病することがあり流行に注意が必要です。
症状
英語の”Whooping”は吠えるような、ぜーぜーするという意味です。途切れない連続の咳で苦しくなり、大きく息を吸い込むときに笛のような”ヒュー”という音が聞かれます。
カタル期(1~2週間)
カタルとは鼻、喉、気道の炎症、分泌物が増えた状況、つまり風邪の時によくみられる症状です。感冒症状から始まり、通常の咳止めでは治まらない咳を認めます。明らかな流行情報などなければ診断は難しいです。
痙咳期(3~6週間)
特有の咳が認められるようになる時期。経過や症状から診断は可能と思われます。
回復期(6週間以後)
特有の咳が徐々に減少し、3~6週間で改善していきます。
年齢分布
以下の国立感染症研究所HPに掲載されているグラフがとても分かりやすいです。
出生直後から生後2か月のワクチン接種が間に合わなかった乳児で多く発生しています。定期ワクチン接種開始にともない急激に減少するものの、10代前後にピークがあります。20代では少なくなった報告数も、40代ごろに少し増えている点は注意が必要でしょう。親の世代が乳児に感染を広げる可能性もあります。
百日咳症例の年齢分布と予防接種歴(2018年第1週~第52週)(n=11,190*)*百日咳 感染症法に基づく医師届出ガイドライン(初版)に則った症例に限定 国立感染症研究所HPより引用
診断検査に関しては遺伝子検査や血清抗体価での評価が多いです。感染者の数でみても10歳前後は非常に多く、40代ごろが他の年代よりも少し多くなっています。
年齢群別の診断検査法の割合(2018年第1週~第52週)(n=11,190*)
(*)百日咳 感染症法に基づく医師届出ガイドライン(初版)に則った症例のみを抽出 国立感染症研究所HPより引用
診断方法
特徴的な症状、流行情報、ワクチン接種歴から臨床的な診断が行われますが、これらだけから確定診断を行うのは難しいです。
WHOの臨床症状の基準は、14日以上の咳を認める患者で、百日咳特有の咳、せき込み嘔吐、1歳未満であれば無呼吸を認める場合、百日咳が疑わしいとしています。
確定診断をするためには、細菌培養、血清学的検査(抗体)、遺伝子検査という方法がありますが、すぐに検査結果が判明するわけではなく、一般小児開業医、クリニックで行う検査ではないと思います。百日咳の診断をつけることが、治療や感染状況の把握に必要であれば行われます。
治療方法
抗生剤治療がありますが、百日咳は百日咳毒素により症状が起きると考えられているため、特徴的な症状が出る前(カタル期)であれば、軽減する効果があると考えられています。また症状が改善しなくても抗生剤で除菌することが、他への感染を防ぐ効果もあります。
抗生剤はマクロライド系抗生物質(エリスロマイシン、クラリスロマイシンなど)が用いられます。しかし、新生児の時のエリスロマイシンは以下の肥厚性幽門狭窄症のリスクがあるため、他の抗生剤を選択することがすすめられています。
エリスロマイシンと肥厚性幽門狭窄症の関連報告
IASR(病原微生物検出情報月報)の記事に米国からの報告が掲載されていますので、そこから引用し説明します。
1999年にA病院で、百日咳への感染予防のため新生児にエリスロマイシンが投与されました。それから1か月のうちに7件の肥厚性幽門狭窄症が発生し、いずれもA病院でエリスロマイシンを投与された乳児ばかりであることがわかった。その後の調査で、エリスロマイシンが発生の一因であることが示されたため、新生児へはアジスロマイシンの治療がすすめられています。
百日咳に対するエリスロマイシンの予防的投与後の肥厚性幽門狭窄症
まとめ
まずはワクチン接種をすることが大切です。生後2か月になったら速やかに四種混合ワクチンを接種しましょう。感染初期の症状は通常の風邪症状と区別がつかないことも多いので、ひどい咳が続く場合には注意をし、周囲へ感染を広げないような工夫も必要になります。
参考文献
全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学(更新情報) -2018年疫学週第1週~52週-
開業医の外来小児科学 南山堂
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